B.net--そうねえ、そういうのになるとムーブを求めるのとは全然違っちゃうから、「面白い」て判断する基準が全然違ってくる。

KEI 「ムーブが面白い」って言うのが普通のクライマーだと思うのね。でもボクの場合は自分の体が「どこまで耐えられるか」って。

イジメてみたい?

KEI だからこの間も甲斐駒?、1800メートル位の所で滝に打たれてみたのね。

イジメてみた(笑)。

KEI そう、イジメてみた、「どこまで耐えられるか」って。
そしたら耐えすぎちゃって(笑)、4日間「かき氷食べ過ぎた状態」になっちゃって、ずっと(頭を指して)キンキンしてて(笑)。

(爆笑)

KEI でも、それもボルダリングかな、と(笑)。

あ、そう?(笑)

KEI ボクの中で、

「精神性」ってこと?


KEI そう、ボクの心のよりどころがボルダリングだから。言葉で言っちゃうと新興宗教になっちゃうようなモンであって、ボクの中の宗教だから。

ただ、これを見てる人が「じゃ、何であんた雑誌とか出てんの?」とか言ったら、極端な話、課題は発表しないけど、オレがこんなに「楽しい」て思うものが世の中にあるんだから、エンジョイできるのも中にはあるでしょ?ロープ使えば危険も少ないし、今はマットもあるし。

で、発表されてて安全な課題を選べば楽しいボルダリングができると思うから、そのために・・・。
あとはもうちょっとクライマーが格好良くなってほしいと思うから(笑)。


それ、ずっと言ってるね。

KEI 「何てカッコ悪いんだ!」って、「ジャージ禁止令」(笑)ジャージはやめよう!

「ジャージ禁止令」はオレが会長だから(笑)ジャージって言っても今は形が違うけど、昔の酷かったねー。そういえば、ほら、もともと(アイス)アックスなんか買込んで・・・、そのヘンの話は?クライミングを知ったきっかけは?

KEI つらい時期があって。やってた事がストリートファイターだったんで、他人を傷つけるのがイヤになって、自分を傷つけたくなった。
たしかにケンカとか格闘技っていうのは自分も傷付くんだけど、自分を傷つけないために他人を傷つける。それと対極だったのが「山」、それで山登りをやってみたくなって。

「どうせ登るなら高い山がいいでしょ」って(笑)。で、頭文字が”I”のスポーツ店に行って「山登りしたいんだけど」って言ったら一式買わされたのね、でもどこで何したらいいのか全然わからない(笑)。

で、ジムってものがあると、そこでは岩登りを教えてくれるって聞いて行ったら、たまたま「Wing」(※1)で。そしたら加藤(※2)さんにいきなり、

「オイッ、チンピラ〜、これぐれーもできねーんダロ?オメーなんかでもよオ!」って(笑)。

それで”カチン”ときてはじめたのが確かにきっかけなんだけど(笑)。

うん(笑)。

KEI でも今となっては加藤さんの一言でオレの人生救われたし、加藤さんがもしこれを見ていたら「加藤さんには本当に感謝している」と言いたいし、それと同じようにボルダリングを教えてくれた登喜男とか周りのみんなとかにも感謝してるし。


KEI 昔はただ単に他人に勝ちたい勝ちたいで、「何でアイツにできてオレにできねんだ!」って、ただそれだけのためにクライミングやってた。
でもある程度のレベルになってきた時に「教えてくれる人」がいなくなった。

追う人がいなくなった?。

KEI 今、たとえば三段とか四段とかやってる人はたぶん教えてもらえる人がもういないと思うのね。で、自分で「何か」を探して。そうしてるうちに技術だけじゃなくて違うものが見えてきちゃって。その違うものが「偽善」なのかもしれないけど「ボクの課題で他人を傷つけたくない」って。自分の中だけで達成感があればボクはそれで十分だから、技術として自己顕示しようとは思わない。
ただ、ボルダラーというものに誇りをもっているからテレビの取材とかラジオとか雑誌の取材にもすべて応じる。
ただ、テレビでも雑誌でも、ボルダリングネットでも「広めるため」に出るのはいいけども、「ボクはこれだけできるんだ!」ていう意味ではやりたくない、だったらコンペに出る。

わかってくれる人はわかってくれると思うし、「何だコラ!」っていう人は、まあ、それで思っててください(笑)。
ボクはクライミングっていう素晴しいスポーツを世の中にもうちょっと認めてもらいたい、そのための捨て石になるぶんには別にかまわない。

(おわり)



B.netから--

「初登」にはいくつかの意味があるがその中の二つが、「技術的克服」と「地理的征服」だ。

”技術的克服”は「人類の〜」がつかなければ自身の限界に挑戦するものである、その課題をたまたま他の誰も登っていなかったらその行為が”初登”と呼ばれる。

この場合、他者との比較は必ずしも必要なく本人の中だけですべてが帰結できる、たとえ以前にそこが誰かに登られていた事がわかっても「あ、そうなの?仕方ないな」ですむかもしれない。

一方で”地理的征服”とは登山の初登頂/初登攀同様、人類が初めてそこに足跡を残した事実にもっとも高い価値を置く。その行為は初登と同時に初登者の手を離れ、”事実”として歴史に記録される。これが「記録は公共物」と我々が言う由縁だ、「クライミングの歴史」はクライマーすべての共有財産だから、たとえ初登者といえども基本的に事実の編集はゆるされない、「登ったけどなかった事にしてくれ」は本来通用しない。

「世界最難プロブレム」はそれ以上が登られた時点で自動的に「2番」になる。しかし”地理的征服”の概念で言う”初登”にだけはそのような事はない、過去から未来までの無限の時間軸の中のただ一点を指すからだ。これはそれだけでとても貴い。

ところが、これは同時に”以前に誰かが登っている”という事が判明した時点で、同じ行為でもその後何回もくり返されるであろう普通の”登頂”にまで一気になり下がってしまう事を意味する。

そこには、たとえ他人に何と言われようとも”地理的征服”に価値を置く他の全ての人々と、これまでそれに意欲を燃やしてきた者達の歴史、人格、場合によっては人生そのものを踏みにじってしまう可能性すらある。

自分のスタイルを模索するには深い思慮が必要だ、なぜなら、それを決めるのも実行するのも全てあなたなのだから・・・。

なんてエラソーに良く書くよナ〜オレも。とか思いながら今日もまた岩を這うのでありんス。

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※1 「Wing」=以前、江東区にあったクライミングジム、狭いスペースゆえに多くの優秀なボルダラーが育った。室井登喜男は当時ここの店員。
※2 加藤泰平=「Wing」の店主、日本にフリークライミングが広がるきっかけをつくった戸田直樹らのもと「グループ・ド・コルデ」のメンバーとして活躍、ヒマラヤ遠征経験もある往年の名クライマー。口の悪さでも有名。

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