コラム4

あるギョ−カイ人との対話

「クライマーってさ、何か妙に”クライミングは安全”って強調するよね・・・」
なんて話をしていた、スキー業界にも詳しい某氏ととあるボルダラー氏の会話を「これは面白い!」って事で、今回のコラムはこの話を途中から・・。
実名は出せませんがな、この内容じゃ(笑)

A氏:とある現役ボルダラー
B氏:アウトドア関連会社勤務、スキー業界にも詳しい。

●豆知識
※1:スキーボード=おおむね長さが100cm以下のスキー。ショートスキー、ファンスキーとも言う。今シーズン出荷数激増が新聞で報じられるなど大ブレイクした。 →関係

※2:「クライマ−の演じるゲームについて」=1967年に「アッセント」誌に掲載された、当時弱冠26才のクライマー、リト・テハダ・フローレスによる短い論文(原題は”Games climbers play”日本では”岩と雪”93号/1983年に訳文が掲載)多くの雑誌等に転載され、のちの世界のクライミング界に大きな影響を与えた。もちろんボルダリングも出てくるのよん。

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※3:クラッシュパッド=
この場合は製品としてのパッドは「アメリカのあるエリアで度重なる着地により腰や足首をいためる人が続出したため開発された」とする説が有力という意味。一般的に使用しないスタイルの方が評価は高い。だが一方でそもそもシューズ自体が足の機能を不自然に殺しているため使用に問題はないのではないかとする意見も一部にはあり、いまだ論争がある。

A: 普通のクライミングは今の所アクションスポーツとしての認知度はあまりないけど・・・、ボルダリングは一応一部には侵透してきてるから、でも何で特にクライマー自身が妙に「クライミングは安全だ」とか強調するんだろうね。「安全じゃなければスポーツじゃない」位に思っている人がやたらいるし。

B: そうそう(笑)

A: それについてだよね、やっぱり(笑)。よくよく他のアクションスポーツを見てみるとさ、全然危険だよねえ。

B: そうですね。
スノボにしたって、実は今まで何人死んでんだよって思うぐらいで・・・。
今日会った某有名スキーショップの人が「ゲレンデはもう安全がきっちり確保されてるんだから、徹底的に楽しめばいいんだよ」って言ってたけど、その言葉結構重要だったんですけど、

この「ゲレンデは安全が確保されてる」ってのはあくまで”整備”されてるって事で、やる人はみんな自分のリスクでやってるんですよ、それは彼等には当たり前なのに何でクライマ−にそれがあてはまらないのか?

A: 何か自然壁のクライミングでも自分のリスクじゃなくて安全は設備が確保してくれるって感覚でやってる人もけっこういるような?
ルールとして安全なものを作ろうとかの安全に勤めるのは当然だけど、その代償にフィールドまで変えちゃっていいのか?ったら、話は別だよね?
スキー業界を見てきた人から見てそのヘンはどう?”新しいジャンル”って事では今はやりの”スキーボード(※1)”とかが出てきた頃なんか。

B: やっぱりスノーボードっていう下地があったっていうのがありますよね。スキーっていう下地があってそれに反抗した人達がスノボをはじめて、そのスノボの歴史を見てきた人達がスキーボードをはじめて・・・。

A: 流れとしてはクライミングより進んでるよね。

B: 一つのジャンルになってるんです、基礎スキーも、アルペンも、スキーボードも。向こうはどのジャンルもそれまでのスタイルの文化を敬承していて(遊び方が)進化している。今の日本のクライミングのジャンルではそれぞれがお互いを理解しようとしてないような気がして・・・自分のスタイル以外を頭から否定とか無視する人、多いですよねメディアからして(笑)。
クライミングってシンプルですよね?でもシンプルなのになかなか理解されないのが不思議なんです。

A: 昔、「クライマ−の演じるゲームについて(※2)」っていう論文があって、あれに「(クライミングの)ルールは”〜するな”の連続以外の何物でもない。」って出てくる。ちょっと聞くと”〜するな=否定”だからネガティブに感じるかもしれないけど、これは逆に言うと自由度が高いってことなんだよね。ほっとくと何でもできちゃう(笑)。

”やれる事”は無限で”やっていけない事”のほうは実ははるかに少ない、でもとても重要な事だからそっちをルールにしたほうがてっとり早い。

インターネット上の「フリークライミング用語集(”限定”の項目)」にもね、「基本的にロック・クライミングは限定の上に成り立つ。」って書いてある。これもその通りで、ただ登ればいいならハシゴかけてのぼればいいし、ヘリでテッペンにおりたっていい。でもそれってクライミングじゃないじゃん。
だから「ハシゴかけて登っちゃいけない」「ヘリで登っちゃいけない」って”限定(制限)”するルールの作り方なんだよね。

それにフリークライミングでは自分の弱さを”努力”じゃなくて”道具”で補填(ほてん)するってのは一番良く無い行為だった、特にボルダリングではそうだよね?でもほっとくとやっちゃう人がいる、誰だって楽はしたいから。昔の人達はそれがわかっていたから序々にルールを作っていった、この知恵がなければクライミングは今でも「4級/A1」の世界だったかもしれない。
”不要なものを設置しない”とか”岩を削らない”というのは真剣に遊ぶヒト達がいつまでも遊べるように考えた最低限のルールであって、けして”上級者エゴ”なんかじゃないんだ。

B: スキーとかの場合だと(スキー場では)飛んでもいいしタイムを競ってもいいし、全部肯定なんですけど、それが全部ジャンルになっていく。「どうやったか」がジャンルになる。

A: クライミングも本当は「難しいのを登った」より「それをどうやって登ったか」が大事で、そうじゃなかったら・・・。

B: ハシゴ。

A: そうそう、だってどう考えても安全で楽じゃん。(笑)

安全に関してはスノーボードもバックカントリーではまだいろいろあるけど、スキー場に関しては安全に関してどうのって言われる事は最近はほとんどないに等しいよね。

B: そうですね。

A: スノボのはやりだしの頃は(スノボ閉め出しとか)あったけど、結局いま一緒になって。だからって「やっぱりスノボは入れないほうがよかった」って事はまああんまり無いよね?そりゃさあ、危険な物にフタをして閉め出すのならスキーの”カッ飛び野郎”もそうとう危険だからねえ。

 

●”スポーツ”って何だ?

B: ボクが出た(スキーボードの)大会で、やっぱり棄権する人が沢山いたんですよ。あまりにも(ジャンプ台が)デカイから。「とても自分には飛べない」って人は沢山いた。

A: ほう。

B: でもそういう人達は自分のリスクを自分で感じたわけで。

A: やめた。

B: 自分の実力を判断して。だけど、いざ始まるとコケたり骨折したりしている選手を見てみんな喜んでるわけ。で、「オレも飛ぼう!」になるんですよ(笑)。ナゼだかしらないけど。

A: 「やめてよかった」じゃなくて?

B: 「飛んでみたい!」にはなっても「やめよう」には何故かならない。死人がでればまた別だろうけどケガはしてもみんなリスクを承知で出てるし、「そういうスポーツだ」っていう認識は最初からあるし。
目の前で板がまっ二つに折れて、腕も折れてひん曲がってる人がケイレンしながら転がってくるんだけどそれを見ても「オレも飛ぼう!」になる。
ちなみにその時に転がってきたのはボクの師匠(笑)。
「やべ〜よ、死んじゃったかも」とか言ってたら、後で本人は「いや〜、やっちゃったよ〜」とか腕つってニヤニヤしてた(笑)。

A: ちょっと前までの特にヨーロッパ系近代スポーツには徹底的に危険を排除するようなところがあって。でも今のアクションスポーツの流れはまったく違うよね・・・、ところが日本にはまだ残ってる。

B: ええ。

A: 特にクライミング界には色濃くのこってるね。昔、山の影響で必要以上に危険だと言われていたからか。

B: それを打破しようとして一時期必死に「安全です」と言った。

A: まあ、「何か間違えたりしなきゃ安全ですよ」と言ってしまったんだよね。言ってる本人達にも悪気はなくて「アルパインよりは安全」っていう意味だったんだろうけど、予備知識のない聞く側にはそうは伝わらなかった。

B: そうですね。

A: 実際は「何も間違えなくてもそれなりに危険」なんだけど。
だって特に間違えなくてもリードクライミングで壁にあたって骨折する人もいるし。

B: スキーも「安全だ」とはどこも言ってないわけです、むしろ”危険だ”と言ってるのにあれだけ(愛好者が)増えた。クライミングも安全だと言いきる必要はない。

A: 危険と言うか”リスク”をわかったうえでやらないと、わかってないから変な事やるんで。
これからはそれなりに危険を理解して・・・、でもその危険の”程度”を説明する事が大事で。
まあ、ボルダリングに限れば下地やム−ブで全然ちがうけどね。でも東京じゃボルダ−壁のある幼稚園や公園もあるくらいだからねえ(笑)。

だってほら、オレがこのあいだ苗場で”X-SPORTS COREXTREME WINTER GAMES”のジャンプ台を間近で見てさ・・・思ったわけ、

あれ、”正気の沙汰”じゃないよ(笑)。

B: ”ビル”ですもんね(笑)

A: ビルどころじゃない!あれからさらに飛んで、くるくる回って固い雪面に着地だよ!アタマから落ちたら死なないほうが不思議だよね、あれ滅茶苦茶だよ、はっきり言って(笑)。

B: ハハハハ!(爆笑)

A: だからって「オレは、飛びたい!」ってヤツはいっぱいいるわけで、別にメーカーに飛ばされてるわけじゃないんだから。だからスポーツに対してのもともとの考え方の違いだよね。

B: ええ。

A: 自然の中のクライミングってのはフリーだろうと何だろうとアクションスポーツでさ、スリル(恐怖感)に負けそうな自分をコントロールする事はアクションスポーツには欠かせない大事な要素だから。
クライマーにも「危険を求めてやってるわけじゃない」って人がいるけど、じゃ、「スリルは全然求めてないの?ほんとかい?ホント?マジ?じゃ、何を求めてるの?アンタ、なんでわざわざ高いとこに登るのよ?」って。

B: 全然リスクのない物って遊びにならない。

A: リスク(スリル)を求める事や、リスクを回避するために努力する事に価値を見い出さないのはとっても問題だと思うね。リスクがあるから知恵を絞って回避する、そうやって人類は進歩してきたんだから。人類がリスクそのものをすべて排除し続けてたら今頃地球は真っ平らな平坦地で草木も生えてないよ(笑)。

B: あ、でもこんな事言ってると「じゃあクラッシュパッド使うなよ」とか言われそうだ(笑)。

A: あ、あれは元々”故障予防”※3だから(笑)

B: あ、そうか、そうだそうだ。(笑)

A: でも使ったら逆にヤバい場合もあるから気をつけないと。尖った岩がどこに出てるのか見えなくなる。A(※本人から”私に対して無礼である”という意思表示があったため4/1匿名に変更しました/b.net)じゃないけど”的”を置いてそこを狙って着地するようにしたほうがかえって良い場合もある。

B: ボク的には的に使ってます。

A: クラッシュパッドの目的が故障防止だからってすべて良いわけじゃないしね、あくまで「モノを使わないスタイルが最も優れている」っていうのを頭においた上で”グレーゾーン”を残しておく考え方をしないと自然を相手にしたスポーツは出来ないよ。
それをどうしても”危険”か”安全”かのどちらかに白黒を付けたいんだったら人工壁に行くしかない、自由に変えられる”白黒”付けられるところに行くしか・・・、でも人工壁でも骨折やねんざの事故は結構起きてるけどね。

B: スキーだって最初は”飛びたい”ヤツはモ−グルコースかバックカントリーで飛んでたわけで、それを(理解を得て)管理してるジャンプ台でやれるようになった、つまり今は人工壁でやってるようなモノですね。

A: そうだね、あれはスキー場という人工の場所で許されるレベルでやってるから。
あれさ、山に行って木切り倒してジャンプ台作ってたらどうなる? そいつバ◯だよ(笑)。

結局さ、今どき「スキーってチョ−安全」とか「危険がない」とか思ってるヤツって、まあそうはいないでしょ?
スキーでコケて足折る事ぐらいあるってのは当たり前じゃない?施設の不備でもないかぎりそれでいちいちスキー場を訴えたりしないでしょ?
そういうもんだよね、自己責任って。

B: そう、みんな納得してやってる。「危険なものだ」ってちゃんと知ってて楽しんでる。

A: それでもちゃんとスポーツって事で一般に認知されてるからね、クライミングもそうあってほしいね、そうなっていかなければ未来は無いから。

(終わり)

●収録テープを元に一部再構成しました/b.net(4/1一部修正)●

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