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(2000.6.23)

岩場の利用に際して(環境編)

はじめに

岩場のある土地は土地所有者の財産です。そして周囲には地域住民の皆さんの暮らしがあります。

利用者である我々自信が考えていかなければならない事があります。

※ここに挙げた情報は執筆時点で入手可能な資料を元に構成しています。実際の岩場では常に最新の情報を取り入れ、各岩場特有の問題を考慮したうえで最良と思われる方法を実践してください。(B.net)

◎鳳来湖のマナー問題についてはこちら


●用便のマナー
・キジ紙の放置は見た目だけの問題ではない
・キジ紙を燃やすの?
・穴の深さ
・目印?
水源地帯に特有の注意点-

●駐車

●火気

●ゴミ
・食べ物を捨てるな!


●用便のマナー--
糞便の不始末は、その後そこを訪れる人達にひどい不快感を与える。ましてやクライミング/ボルダリングと何のかかわりもない地元の方々や地主であれば、その不愉快さはとても見過ごせるものではないだろう。

小便は今のところその悪臭が主な問題であり、迷惑にならない場所を探し処理するとして、ここでは主に近くにトイレのない岩場での大便の処理について考える事にする。

 

原則として、

・まず何より、用便は岩場に行く前に済ませる。(特にボルダリング/クライミングの場合、岩場に長時間滞在する事は比較的稀なのでこれを心掛けるだけで相当な成果が期待できるだろう。)

・どうしてもシタイ時、最良の方法は設備の整った下界のトイレまで持ち帰り適切に処理する事だ。

・どうしてもそれがムリなら水場から遠く離れて(通常50〜100m以上、できるだけ遠くと言われる)雨がふると水が流れるような所を避けて穴を掘って埋める。

※元の場所に戻れなくて遭難、なんて笑えない話もありうるので気をつける。

 

・穴の深さ
便を埋める場合の穴の深さだが、目安は通常15cm程度と言われているようだ、これ以上あまり深すぎると便を分解するバクテリアが活動してくれないという事らしい、また標高の高い所も便の分解は遅いという。実際問題として土の柔らかさなどの条件も様々なのでそれを考慮したうえで決めよう。
以前は動物が便を掘り返さないようにという理由で穴は出来るだけ深く掘るとも言われたが最近の傾向は違うようだ。

 

・キジ紙の放置は見た目だけの問題ではない
キジ紙(その多くがティッシュペーパー)が風に揺れてあたり一帯に匂いが漂う、なんと不快な光景か。これだけでもイヤなのにティッシュペーパーには他にも問題がある、意外に分解しにくいと言うのだ。

さらにそのティッシュペーパーの中でもキジ紙に利用される事が多い”ポケットティッシュ”、これにはわざわざ耐水性を持たせたものまである。これが雨水などの侵入を防ぎ、便そのものの分解を遅らせる原因となるという。
使用したペーパーは便と同様持ち帰る事が理想だ、「便は持ち帰れないけど紙なら」という人もいるだろう。
それもどうしても出来ないと思う人はせめて水に溶けやすくできている”トイレットペーパー”を使い穴を掘って埋める。

 

・キジ紙を燃やすの?
登山者やキャンパーの中には「用便で使ったキジ紙は燃やす」という人も結構いるが、山の管理者がまっ先に心配する事に「山火事」がある。火は自分では消したと思っていても消えていない事もあるかもしれないし、無用な誤解を招く要因ともなる、火気の使用は慎重に検討し、できるだけ避けたい。

以前、山道を歩いていた時の事だ。誰かが靴で踏んで火を消したと思われるタバコの吸い殻から、周りの一見土にしか見えない部分にブスブスと焦げが拡がっているのを見つけた事がある(腐りかけの木だったのか??)。「コノヤロー、オレが遭難したら化けて出てやるからな!」とか思いつつ水筒の水を使って消した事は言うまでもない(下りでよかった)。

※↓「火気」の項も参照

  

・目印?
埋めた場合はできれば落ちてる小枝か何かでそれとなく分かる程度の目印を残しておくと次の人が知らずに同じ所を掘り返す”悲劇”(これはとても悲惨だ)を防げるだろう。

  

水源地帯に特有の注意点

日本の場合、山間部の岩場は下の村や町の水道の水源地帯にある場合もかなり多い。

自分達の水源地の近くに便をそのままばらまかれる不愉快さは想像できるだろう。

糞便を処理するに際しての水源地に特有の注意点として、一般に良く知られているのは大腸菌の問題だと思うが、他にも人間を含めて動物の糞便から感染する病原性微生物の問題がある。

その中の一つ、クリプトスポリジウムは感染すると腹痛を伴う水様性下痢を起すいわゆる寄生虫の仲間で、塩素に強い耐性をもち、一般水道の塩素消毒だけでは対応できないため米国では下痢患者が40万3000人にもおよぶ水道を介した大規模な集団感染例もある。日本でも平成8年に埼玉県で水道を介して8800人もの住民が集団感染して以来、厚生省が対策を指導している。

クリプトスポリジウムは人間の他、かなり多種類の動物に寄生し、感染者の糞便を通じて環境中にオーシスト(殻に被われた卵のような状態)の状態で排出され、それが混入した飲み物、付着した食物、付着した手などを介して他の動物や人間が経口摂取する事で感染する。
一般健常者では感染しても症状が出ない場合もある。また、症状がでた場合も多くは数週間で自然に治癒するというが、老人や幼児、または病気などで免疫力が低下している人の場合は死亡の危険も含めて重篤になる場合もあるという。
症状のあるなしに関わらず感染者の糞便からはその後治癒までの数週間にわたって新しい感染源となりうるオーシストが輩出される。

感染を防ぐには水を煮沸するか、専用のろ過装置等を使用してろ過するかだろう。米国等にアウトドア用浄水フィルター製品が多く存在しているのは、かの地の河川での寄生虫検出率が非常に高いという事実が関係しているらしい。

よく似たタイプの寄生虫感染症で有名なものとしては他にジアルジア症などもある。クリプトスポリジウムにくらべ塩素耐性が弱いため、いまのところ日本の水道水では問題になりにくいが、沢の水では十分問題になる。これも人や動物の糞便が主な感染源とされている。

・海外旅行中やその後に下痢を起した経験のある方もいるだろう、実はそれはこれら寄生虫感染症である場合も多いという事だ。

たとえ、今後水道水の対策がなされたとしても、我々の心掛けの悪さが一見美しい沢の水をそのままでは飲めないものにしてしまうとしたら不幸な事だ。自分の便の処理には注意すべきだろう。

・詳しくは、参考→
・クリプトスポリジウム、ジアルジアの生態等について(厚生省報道資料より抜粋)
・水道のクリプトスポリジウム対策(広島大学)

 

●駐車--
これまで多くの岩場がこの問題から登攀禁止騒動に発展している、とても深刻な問題。

よそから来てそこに車を止めた人はそれっきりかもしれないが、地元の住民は毎週毎週いやな思いをさせられていると考えよう。

あなたが車を止めたその場所は、普段は山仕事の人達が車を止めているスペースかもしれないし、その周辺で唯一、車がすれ違える退避スペースかもしれない。奥の砕石場に行く大型ダンプが幅ギリギリで走る道かもしれないし、一般公道の規格で設計されてない林道を地元の生活道路として例外的に解放している場合すらある。

初めての地ではなかなか駐車適地が分からない事もあり、我々も含めて間違いもあると思うが、どちらにしても「どこに止めようがオレらの勝手」という態度は絶対に慎しみ、地元の人やその地の事情に詳しいローカルクライマーの注意を素直に聞こう。

また、仲間うちでどこかに待ち合わせ、車を乗り合いにする事も駐車台数を減らすためには有効な手段だ。

 

●火気--
タバコの火や、コンロの火など、火の元の始末に注意しすぎるという事はない、タバコの吸い殻の持ち帰りも含めて徹底しよう。前出の通り、山の持ち主や林業関係者は火の不始末を何よりも嫌うのだ。

また、国立公園および国定公園内に指定された「特別地域」の中にさらに指定された「特別保護地区」内の場合、焚火は自然公園法の規定により禁止である。
・参考→
環境庁ホームページ

これに概当しない地域でも、河原で良く見かける石にこびりついたコゲ痕や、燃え残りの炭などの痕跡は後に訪れる者にとっては不愉快な物であり、マナーとしてもなるべく残すべきではない。
また、ただ「燃える」という理由で化学製品のパッケージ等を燃やす事は絶対に止めるべきだ、燃え切ったようでも後でカマドをバラしてみるとカスが大量に残っている、そして焚火のような低温燃焼ではダイオキシン類の発生が予想される。

特に他にキャンパー達がいないような岩場の近くの河原等で不始末があると、たとえ実際には違う場合でもそれはクライマーに対する悪印象となりかねない。環境を守り地主や住民に悪印象を与えないように、できるだけ一切の痕跡を残すべきではない。

(ただし一般キャンパーも良く利用する河原等でのキャンプでは「前に訪れた者の痕跡(カマド)をそのまま利用する事によって、痕跡を一箇所ですませよう」という意見もある。しかし、現在キャンパーのあいだでは車で乗り付けられるような場所ではローインパクトの観点からバーベキューコンロ、ツーバーナー等の使用が推奨されている。)

どちらにしても火の不始末は決定的な命取りとなる、特に注意しよう。

※↑キジ紙を燃やすの? も参照

 

●ゴミ--
自分の出したゴミを持ち帰るのは初歩の初歩、文明人として当たり前。

でも、たまには猿並の人がいてゴミをそのまま放置して行ってしまうかもしれない。そんな時、自分の周囲5mでいいからみんながゴミを拾っていると遊び場はいつもキレイ。とはすでにサーフィンの世界で行われている”ちびくりーん”の考え方である。

でも、いつも「やらなきゃいけない」とか思ってると周囲の目を気にしてイヤんなっちゃう人もいるだろう(って、オレか?^^;)。
そういう人も、できる余裕のある時にできる範囲でやると考えておけば気が楽だ。「しばらくやってなかったから今日は根性いれて20m四方キレイにしよう」とかでもヤラナイよりははるかにマシだ。

自分の出したゴミは自分で持ち帰る。他人の出したゴミもその気になったら持ち帰る。で、とりあえず一歩を踏み出してみるってのはいかがッスか?

 

・食べ物を捨てるな!
意外に思う方もいるかもしれない、「腐るからいいじゃないか」という意見もある。
しかし、フィールドに食べ物を放置する事は野生動物に餌付けをしているのと同じ事だ。クマ、ノイヌ(野犬)、イノシシ、サル、etc...。彼等をわざわざ人里近くに呼び寄せてはいけない、それは人と獣の両方に取り返しのつかない悲劇を生む事になるかもしれないからだ。

さらに先の「水源地帯に特有の注意点」でも指摘したように、彼等の中に問題の寄生虫に感染した固体がいたとしても、それを人里に寄せつけないようにする事で、その糞による水系等の汚染を多少なりとも防げると思われる。


※参考資料--
厚生省
環境庁
水道のクリプトスポリジウム対策(広島大学)
山のトイレ問題を考える(大雪山の野営地の現状と登山者の意識)
平ヶ岳ホームページ(平ヶ岳のトイレ問題を考える)

(社団法人)日本アルパインガイド協会(”バックカントリー”2号)
”ちびくりーん”ホームページ 


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